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新潟地方裁判所 平成5年(わ)124号 判決 1994年1月27日

本籍

新潟市忠蔵町三番地

住居

同市寺尾上二丁目三番一二号

会社員

山岸利之

昭和一三年三月二八日生

右の者に対する法人税法違反、有印公文書偽造、同行使被告事件について、当裁判所は、検察官仲居國緒出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、新潟市小針八丁目一番一号に本店を置き、建設業等を営む有限会社榊建設(以下「榊建設」という。)の取締役として、その経営・業務に関与していた者であるが、

第一  榊建設の取締役として、その業務全般を統括していた田村鐡舟と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費を計上する方法により所得を秘匿した上、昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一九五六万六二二二円(別紙(一)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一一月三〇日、同市営所通六九二番地の五所在の所轄新潟税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二六万八〇三〇円でこれに対する法人税額が三八万〇四〇〇円である旨を記載した内容虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第三二号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七二五万七七〇〇円と右申告額との差額六八七万七三〇〇円(別紙(三)脱税計算書参照)を免れ、

第二  前記田村鐡舟及び榊建設の実質的な経営者として、その経営・業務に関与していた田村久の両名と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産取引に株式会社榊工務店(以下「榊工務店」という。)を介在させる等の方法により所得を秘匿した上、平成元年一〇月一日から同二年九月三〇日までの事業年度における榊建設の実際所得額が一億五四三七万七七八八円(別紙(二)修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金が一億八三一七万七〇〇〇円であったにもかかわらず、同年一一月三〇日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一二万二三二六円、課税土地譲渡利益金が零でこれに対する法人税額が三二万五三〇〇円である旨を記載した内容虚偽の法人税確定申告書(同号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億一五八二万三九〇〇円と右申告額との差額一億一五四九万八六〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ、

第三  前記田村鐡舟及び同田村久の両名と共謀の上、平成二年一月二〇日ころ、前記榊建設の事務所において、行使の目的をもって、ほしいままに、あらかじめ入手した同年一月一七日付け新潟税務署長朝比奈和三発行にかかる同税務署長の記名押印のある榊建設宛納税証明書三通(事業年度が昭和六二年九月期のもの、同六三年九月期のもの、平成元年九月期のもの各一通)の請求人欄に「有限会社榊建設、代表取締役田村鐡舟」とあるのを砂消しゴムで抹消し、同欄に事業年度が昭和六二年九月期及び同六三年九月期の右各納税証明書については、「株式会社榊工務店、代表取締役田村鐡舟」と、平成元年九月期の右納税証明書については、「株式会社榊工務店、代表取締役田村久」と刻した記名判をそれぞれ押し、もって、新潟税務署長作成名義の榊工務店宛納税証明書三通を偽造した上、伝川優子をして同二年二月六日、同市川岸町三丁目一八番一号所在の新潟土木事務所において、同所係員に対し、榊工務店代表取締役田村久名義の宅地建物取引業者免許申請書の添付資料として、右偽造にかかる納税証明書三通を真正に成立したもののように装い、これを一括して提出行使し

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成五年五月二四日付け供述調書(七丁のもの)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する平成五年六月二二日付け供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  田村鐡舟の検察官に対する平成五年六月二三日付け供述調書二通

一  田村裕子の検察官に対する平成五年六月二三日付け供述調書二通

一  田村裕子の大蔵事務官に対する平成四年一二月三日付け質問てん末書

一  大蔵事務官作成の平成五年六月二四日付け外注費調査書

一  新潟税務署長作成の「課税状況の回答書」と題する書面(榊建設の同元年九月期に関するもの)

一  押収してある平成元年九月期法人税確定申告書(平成五年押第三二号の1)

判示第二の事実について

一  証人佐藤正文の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成五年六月一日付け(二丁のもの)、同月六日付け、同月九日付け、同月一三日付け、同月一九日付け、同月二〇日付け、同月二一日付け、同月二三日付け、(二通)及び同月二四日付け各供述調書

一  田村鐡舟(平成五年六月二日付け、(五丁のもの)及び同月九日付け(五丁のもの))及び田村久(同月七日付け、同月一〇日付け、同月一一日付け、同月一四日付け、同月一六日付け、同月一七日付け、同月一八日付け、同月二〇日付け、同月二三日付け(四丁のもの)、同日付け(一〇丁のもの)同日付け(二丁のもの)、同月二四日付け(四丁のもの))の検察官に対する各供述調書

一  奥浜敏勝(二通)、山口哲、佐藤正文(平成五年五月一一日付け及び同年六月六日付け(一二丁のもの))、苅部正、中村勇、小杉哲夫(同年四月一九日付け)、入倉宗、植木東一、田村修、(五通)、外山正範及び鈴木嘉道(同年五月二六日付けのもの二通)の検察官に対する各供述調書

一  田村裕子の検察官に対する平成五年四月二七日付け供述書

一  田村裕子の大蔵事務官に対する平成五年一月一三日付け質問てん末書(四五丁のもの)

一  大蔵事務官作成の平成五年六月二四日付け支払手数料調査書、同日付け受取利息調査書、同日付け雑収入調査書、固定資産売却益調査書、同日付け事業税認定損調査書、同日付け道府県民税利子割額調査書、その他所得調査書、土地譲渡利益金額の計算書(榊建設の同二年九月期に関するもの)

一  検察事務官作成の平成五年六月二四日付け捜査報告書

一  新潟税務署長作成の「課税状況の回答書」と題する書面(榊建設の同二年九月期に関するもの)

一  押収してある平成二年九月期確定申告書(平成五年押第三二号の2)

判示第三の事実について

一  被告人の検察官に対する平成五年五月一九日付け、同月二〇日付け及び同年六月一日付け(一七丁のもの)各供述調書

一  田村鐡舟(平成五年五月一六日付け)及び田村久(同年六月二日付け及び同月二三日付け(一二丁のもの))の検察官に対する各供述調書

一  伝川優子(同年四月二九日付け)、須貝幸子、高橋俊一の検察官に対する各供述調書

一  新潟県土木部都市整備局建築住宅課長作成の平成五年七月二二日付け「捜査関係事項について(回答)」と題する書面

一  株式会社榊工務店名義の宅地建物取引業者免許申請書

(法令の適用)

被告人の判示第一及び第二の各所為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第三の所為のうち、有印公文書の各偽造の点は、いずれも刑法六〇条一五五条一項に、偽造有印公文書の一括行使の点は、いずれも同法六〇条、一五八条一項、一五五条一項にそれぞれ該当するところ、判示第三の偽造有印公文書の一括行使は、一個の行為で三個の罪名に触れる場合であり、有印公文書の各偽造とその各行使との間それぞれ手段結果の関係があるので、同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として犯情の重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし、判示第一及び第二の罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右の刑の執行を猶予し訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

一  本件は、被告人が田村鐡舟や田村久らと共謀の上、榊建設の二事業年度にわたる法人税合計一億二二三七万円余りを脱税し、更に、宅地建物取引業者の免許(榊工務店名義のもの)を更新するに当たり、榊工務店宛の納税証明書三通を偽造し、これを一括して提出行使したという事実である 右にみたとおり、本件逋脱額が多額である上、その逋脱率も約九九・四二パーセントに達していること、被告人らの用いた犯行の手口は、各事業年度の決算に当たり、外注費を水増し計上したり(平成元年九月期)、所有ビルを売却した際、多額の法人税やいわゆる土地重課税が賦課されることを予期し、架空の売買契約書を作成するなどの方法により、右取引の中間に無申告法人の榊工務店を介在させて所得の圧縮を図るなどしたもので(同二年九月期)あって、いずれも計画的かつ巧妙悪質な犯行であること、以上の諸点に照らすと、被告人の納税意識は著しく乏しいものといわざるを得ない。また、納税証明書三通を偽造、行使した点も、榊工務店が受けていた宅地建物取引業者免許を更新する際に、右偽造にかかる納税証明書をその添付資料として提出し、その結果、右免許を不正に取得しているのであって、私企業の都合を優先させたその動機は何ら酌むべき事情が認められないばかりか、公文書である納税証明書の信用を害した点も看過することができない。しかも被告人は、平成元年九月期における架空外注費の計上のみならず、納税証明書の偽造・行使についても自ら発案し、更に、同二年九月期にも、不動産の売却先との間における協定書及び売買契約書の各作成に関与して、榊建設の所得を秘匿しており、その関与の程度や果たした役割に徴し、被告人の刑責は重いといわざるを得ない。なお判示第二の犯行について、被告人の犯意に関する弁護人の主張は、必ずしもその趣旨が明らかではないけれども、要するに、確定申告時において、被告人は未必的な犯意を有していたにすぎない旨主張するものと解される。そして、被告人も当公判廷において、同趣旨の供述をしている。しかしながら、関係証拠によると、被告人は、榊建設の平成二年九月期の法人税につき、その確定申告をするに当たり、その職責に基づき、確定申告書を自ら作成し、これを田村鐡舟に示してその記載内容について了解を取り付けた上、同人に右書面の代表者自署押印欄に署名押印をしてもらう一方、被告人も経理責任者欄に署名押印して右書面を完成させ、これを所轄税務署長に提出していることが認められるのであって、以上の事情に徴すると、被告人は、確定的故意をもって判示第二の犯行に及んだものというべきであるから、所論は採用することができない。

二  してみると、被告人は、本件各犯行当時、榊建設の役員に就任していたとはいえ、実質的には田村鐡舟及び田村久が経営する榊建設の一従業員として、月額四〇万円の給与を受けていたに過ぎず、判示第一及び第二の脱税によりさしたる利益を得ていないこと、特に判示第二の犯行については、田村鐡舟らの指示に従って行動し、積極的に関与したものではないこと、本件犯行後、榊建設を退職したこと、いずれの犯行についても反省の態度を示していること、被告人の友人が被告人の指導、監督を誓約し、被告人の妻も被告人の減刑を嘆願していること、被告人には道路交通法違反の罪による罰金刑を除いて前科がないことなど被告人に有利な事情も認められ、これらの諸事情を総合勘案して、今回に限り刑の執行を猶予し、社会内で更生させる機会を与えるのを相当と認め、主文掲記の量刑をした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新田勝志 裁判官 山本武久 裁判官 永谷典雄)

別紙(一) 修正損益計算書

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

<省略>

別紙(三) 脱税額計算書

<省略>

別紙(四) 脱税額計算書

<省略>

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